ニュースの概要
業界専門媒体が、電気めっきの工程を実験室での評価から実際の生産ラインへ移すための、データを使った予測モデルの考え方を紹介した。めっきの仕上がりは、電流の流れ方、液の温度、薬品の濃度、添加剤、処理時間、液の動きなど多くの条件が絡み合って決まる。熟練者の勘に頼る従来のやり方では、品質のばらつきが出たときに原因をつかむまで時間がかかる。そこで工程のデータを集めて分析し、付き方や不良の出方を事前に予測できるようにすれば、条件の最適化、異常の早期発見、保全の計画、薬品使用量の削減につながるという内容である。
引用元: データ駆動型モデルによる電気めっき工程の工場適用を解説(FinishingandCoating.com)
分析・見解
実験室の成功が工場で再現されにくい本当の理由
めっきの実験は、小さな槽で、新しい液を使い、条件を一つずつ変えて行う。これに対して工場の槽は数百リットルから数トンあり、液は日々劣化し、部品の形も入れ替わる。だから実験室で最良だった条件表が、そのまま工場で通用することは少ない。
今回の話の核心は、条件表を渡すことではない。条件が揺れたときに結果がどう動くかを、式やモデルとして持ち込む点にある。
変数が絡み合うから、勘だけでは追いきれない
電流密度(=単位面積あたりに流す電流の量)が高すぎると、角の部分にだけ厚く付き、焼けやざらつきが出る。浴温が上がれば反応は速くなるが、添加剤の消耗も早まる。薬品濃度は補充のたびに上下し、液の流れが弱い隅では濃度が局所的に薄くなる。
これらは単独では説明できる現象でも、同時に動くと因果が見えなくなる。ベテランが「今日は液の機嫌が悪い」と言うとき、実は複数の小さなずれの合計を体で感じ取っている。データモデルは、この感覚を数字に置き換える試みだといえる。
異常の発見が事後から事前に変わる
従来は、検査で不良が出てから原因を探す。この順序だと、不良品はすでに大量にできている。データを常時とっていれば、温度が0.5度ずれた、補充後の濃度が戻っていない、といった前兆を見つけられる。
自動車部品の亜鉛めっきや、電子部品の金めっきのように、膜厚の規格が厳しい分野ほど効果は大きい。金のように材料費が高い工程では、薬品や貴金属の使いすぎを数パーセント抑えるだけでも、年間の収支が動く。
独自の視点は、モデルより先にデータの質が勝負になること
この種の話は、高度な計算手法に目が向きがちである。だが現場で先に詰まるのは、データの取り方だ。手書きの日報、補充量の記録漏れ、槽ごとに違う計測器、といった事情で、使える記録が意外に少ない。
今後は、予測の精度競争よりも、記録を自動で残す仕組みと、現場が納得できる説明の付け方が差を生むだろう。なぜその警告が出たのかを職人に説明できないモデルは、使われずに終わる。
ビジネスへの影響
最初の一歩は、既存の記録を整えること
いきなり大きな投資をする必要はない。まず、温度、電流、電圧、処理時間、補充した薬品の量を、同じ時刻の軸で残すことから始める。紙の日報が中心なら、タブレット入力や安価なセンサーで十分である。
三か月分ほどの記録がたまれば、不良が出た日の共通点が見えてくる。この段階で、検査結果とひも付ける仕組みを作っておくと、後のモデル作りが一気に楽になる。
費用対効果は不良率と薬品費で測る
導入の判断は、不良率の低下、手直し工数の削減、薬品や電力の節約という三つの数字で行うとよい。例えば月の不良が3パーセントから2パーセントに下がるだけでも、単価の高い製品では回収が早い。
注意したいのは、外部ベンダーに任せきりにしないことだ。モデルの前提となる工程の知識は、現場にしかない。熟練者の経験を聞き取り、それを変数の選び方に反映させる協力体制を、最初に決めておきたい。
取引先への説明力も競争力になる
顧客から品質の根拠を求められる場面は増えている。工程データを示せれば、異常時の原因追跡も早く、信頼につながる。技能の継承が課題の工場ほど、データを残す取り組みは人材面でも意味を持つ。
